運営からのお知らせ
祝!巫女人気ランキング1位獲得 ローラ主演の特別ショートストーリーを公開!
いつも「アルカディアの蒼き巫女」をご利用いただきありがとうございます。
8月に実施させていただきました巫女人気投票ランキングにて見事1位を獲得したローラを祝して、ローラ主演のショートストーリー「永遠の花」を公開いたします!
本編では語られることのない特別な物語を、お楽しみくださいませ!
巫女人気ランキング1位獲得記念 特別番外編 |
『永遠の花』
それは、森の国で『魔のオーブ』を直し、魔導国ナルビルから騎士国グラージャートへ向かう途中のこと。
生まれつき体が弱いローラは、今日もまた、馬車の中にある自室で休んでいた。
ローラ
「旅をして、少しは体力がついたと思ったんですが…まだまだですね」
揺れを感じることなく、馬車は進んでいく。
ベッドから見る窓の外の景色は、森の国とは違った並木道。
舗装はされているけれど、迷いの森とも呼ばれているこの道は、最初に共和国セジックからやってきた時とは、また違うルートであった。
ローラ
「どうして私だけ、役に立たないのでしょう…ゴホッ、ゴホッ」
弱っている体は、心まで弱くしてしまう。
ローラは、そのまま、ゆっくり夢の中へと落ちていった。
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ローラ
「んっ…んんっ…」
目が覚めると、窓からは薄く月光が射しこんでいた。
風景がピタッと止まったまま変わらないということは、今日の移動は終わったということだろう。
ローラ
「眠りすぎてしまいました。せめて、夕食のお手伝いだけでも、できれば良かったんですが…」
大きなため息をつくローラ。
すると、一瞬、窓の外が光る。
ローラ
「えっ? 今のは…?」
ローラは窓の外に注目する。
ローラ
「あっ、やっぱり間違いじゃないです。なにかが光って…」
ローラは用心のため、ドアのそばに置いてある弓矢を手にし、部屋を飛び出して馬車から降りた。
???
「なぁ、なぁ! キミなら見えるよね? 助けて! どうか、ボクたちの国を…」
小さいが、ハッキリとした声が聞こえてくる。
ローラ
「そこにいるのは…誰? いったい、どうしたんですか!?」
???
「ようやく…ボクのことが見える人に会えた…」
目の前にある岩陰から、ぴょこっと顔を出す、手のひらサイズの妖精。
透き通った美しい羽を持つ愛らしい姿をしているが、その表情は曇っていた。
コルリ
「ボクは妖精のコルリ…。妖精の楽園からやってきたんだ…。君は…?」
ローラ
「私はエルフ族のローラ。コルリさん、どうされたのですか?」
コルリ
「助けて…。ボクたちの楽園が、美しい花が咲き誇る楽園が、闇に侵されてる…」
ローラ
「闇…? まさか、森の国の女王様やエイデンさんの心を奪ったあの…!?」
コルリ
「ローラ、闇の正体がわかるの? お願い、みんな困ってるんだ…助けて!」
ローラ
「助けると言われても、どこに妖精の楽園が…」
イノリ
「どうしたのですか、ローラさん?」
フィリエ
「さっき、ローラの部屋の外で何か光ったわよね? いったいなんだったの?」
ローラ
「イノリさん、フィリエさん…。あの、今、妖精の楽園が大変なことになっているみたいでして…」
フィリエ
「妖精…? どこにいるのかしら?」
ローラ
「えっ、2人には見えていないんですか?」
コルリ
「ごめん、ちょっと待って。今、妖精の楽園に連れて行くよ…」
すると、コルリの全身が強く光りだし、あたりを白く包んでいく。
ローラ
「きゃっ!」
あまりの眩しさに目を覆い隠すローラたち。
コルリ
「ここが楽園…妖精の楽園。でも、今は闇に覆われている悲しい場所だよ」
コルリの声に、巫女たちは閉じていた目を開ける。
ローラ
「こ、ここは…!?」
フィリエ
「さっきまで、たしかにナルビルの迷いの森にいたはずなのに…」
イノリ
「いったい、なにが起こったというのですか!?」
あたりを見回すと、見たことのないような美しい花々が咲き乱れる草原が広がっていた。
コルリ
「妖精は、いつも人間の隣にいるんだよ。でも、人間には気づけない。エルフだってわからない。ボクたちが心通わせていたのは遠い昔だから。でも、ボクはローラの放つ光が見えたの。とても清らかな光。そしたらローラもボクを見つけてくれたの」
イノリ
「ローラさん、すごい…」
ローラ
「そ、そんな…私は、いつも迷惑をかけてばかりで、なにもできなくて…」
フィリエ
「ううん、そんなことないわよ。それにね、ローラの清らかな心が妖精さんと心を通じ合わせたのではないかしら」
ローラ
「そうなんでしょうか…」
イノリ
「あら、それでは今、私たちにも妖精さんの姿が見えるのは…」
コルリ
「ここは妖精の国だから見えるんだ。でも、君たちもボクの放つ光は見えたんだよね。君たちならきっと…。あ、あそこを見て。あそこが、闇王の支配している場所だよ!」
話をさえぎって、コルリが指差した。
周囲には花畑が広がっているのだが、その中心には巨大な闇の塊があり、そこから徐々に黒い闇が広がりつつある。
ローラ
「あの闇が…闇王?」
コルリ
「うん。闇の親玉。あれが、楽園の中心にある太陽の花が咲くのを邪魔してるんだ。太陽の花が咲かないと、楽園は枯れてしまうよ。あの闇は妖精の力じゃ払えないの…。お願い、太陽の花を助けて!ボクたちにとって、この世で一番大切な花なんだ!」
フィリエ
「では、あの闇王というのを倒さなくては、妖精の楽園がなくなってしまう、ということね」
ローラ
「マスターもいないのに、私たちだけでできるのでしょうか…」
コルリ
「ローラならできる。ローラの清らかな光は、きっと闇を払う清らかな力を持っているはずだもんね」
ローラ
「清らかな力…」
すると、その時!
闇の中から魔獣の姿をした黒い塊が現れた。
イノリ
「危ない!」
一直線にローラに向かって飛びかかってきた魔獣を、イノリは刀で両断した。
ローラ
「あ、ありがとうございます…」
イノリ
「いえ、このくらいしかお役に立てませんから…」
フィリエ
「あの闇王から、闇の姿をしたモンスターが出てくる…。見て、また闇の獣をたくさん作っているわ!」
ローラ
「これは…うかつに近づけませんね。どうやってあの闇王を消せばいいんでしょう…」
イノリ
「そうですね…。不用意に近づけないのであれば、私の剣術ではどうしようもありませんから…」
フィリエ
「方法は1つ、かしら」
ローラ
「えっ…?」
フィリエ
「ローラ、あなたが闇王を弓で射ればいいのよ」
ローラ
「そ、そんな! こんな距離で当てるなんて…私には…」
コルリ
「お願い。ローラならできるよ。ボクの力も貸すから」
コルリはローラの周りをぐるぐると舞う。
それは楽しそうに、祈るように。
すると、眩しい太陽のような光がローラを包み込む。
ローラ
「温かい…それに、体が軽くて、なんだか自分の体じゃないみたいです…」
フィリエ
「これが、妖精の力なの…? なんて綺麗なのかしら…」
イノリ
「あ、あの…気のせいであれば良いのですが、闇がどんどん広がっているように見えます」
???
『そこにおるのは誰だ? わが下僕を切ったのは誰だ?』
意識に直接語りかけてくるような声。
その声は低く、暗く、心に重くのしかかってくる。
コルリ
「う、うぅ…これは、闇王の声だ…。全身が重くなる…」
ローラ
「コルリさん、私の肩に乗ってください」
コルリ
「ローラ、ありがとう」
闇王
『この妖精の楽園を支配し…やがて人間の世界も闇に染めようぞ』
フィリエ
「闇がどんどん広がっているわ。お願いローラ、あなたが頼みよ」
ローラ
「で、でも…」
イノリ
「大丈夫です。コルリさんから力も頂いているのですから、必ずできるはずです。私も、そのように信じています」
フィリエ
「ええ…これは、ローラにしかできないことなのだから」
ローラ
「私にしか…できないこと…」
ずっと探していた、自分が存在している意味。
もしかしたら、なにかが見えるかもしれないと、ローラは思った。
ローラ
「わかりました。やってみます!」
ローラは弓を構え、矢を取り、力強く引く。
ローラ
「狙うのは…闇の中央…闇王のいる場所…」
狙いを定め…射る!
矢は光の軌跡を残しながら闇の中を進む。
だが、それは中央の闇の塊を射ることはなく、わきを過ぎてしまった。
その間にも闇と闇の獣は増殖を続け、一行を取り囲んでしまう。
ローラ
「あっ……失敗です! そんな…どうしたら…」
フィリエ
「大丈夫よ、落ち着いて。あなたなら必ずできる…」
ローラ
「ですが、私には…。やっぱり怖いです」
コルリ
「ローラ、諦めるの? ローラが諦めたら、妖精の楽園はなくなっちゃうよ…」
イノリ
「ローラさん、大丈夫です。ローラさんは旅に出てからも、ずっと弓の練習や、様々なことに努力しておりました。いつもと同じ気持ちで、自分を信じてみてください」
ローラ
「いつもと同じ気持ちで…自分を信じる…」
フィリエ
「あ、闇の獣たちがこっちに来るわ! イノリ、2人で食い止めるわよ!」
イノリ
「はい、ローラさんを守ります!」
ローラは大きく深呼吸して、目を閉じる。
もう、闇は目の前まで迫っている。
だが、不思議とローラの心は落ち着いていた。
ローラ
「いきます!」
ミシミシと音を立てて矢を引き、狙いを定め…射る!
光の軌跡を作りながら、矢は闇の中を進む。
そして、先ほどより強く輝くその光は、美しい弧を描き、闇王へと突き刺さる!
闇王
「ぐぉおおおおおおおお!! なんだこれは…!? なんだこの光は!? うぎゃあああああああああああ!」
目の前まで迫っていた闇は薄くなり、次第に消えていった。
コルリ
「あの光…あれは…伝説の…」
フィリエ
「さすがだわ、ローラ」
イノリ
「やはり、ローラさんの弓の腕前は素晴らしいです!」
ローラ
「いえ…みなさんが私を信じてくれたから…。だから、私も自分を信じる事ができました」
闇王
『ググググ…しかし…まだ終わらぬぞ…。間もなく、我を作りしものが目覚めの時を迎えるのだからな…ウゴォオオオオオ!!』
闇王が消える間際に発した声は、ローラたちに届かなかった。
そして、闇王がいた場所には、巨大な一輪の花が咲く。
それは眩しいほどのオレンジ色に輝き、周囲を圧倒するような美しさだった。
ローラ
「わぁ~…なんて大きくて美しい花なんでしょうか」
コルリ
「これが太陽の花。ボクたちの大切な大切な太陽の花。ありがとう、この国が蘇ったよ!」
元気になったコルリは笑顔でローラの周りを飛ぶ。
それにつられたように、他の妖精もやってきて、祝うようにローラの周りを飛ぶ。
フィリエ
「ローラは妖精にとっての救世主…伝説の蒼き巫女ね」
ローラ
「そ、そんな大げさにしないでください…!」
イノリ
「ローラさんだからできた事、ですね」
コルリ
「ありがとう、ローラ。それにフィリエとイノリも。でも、もうお別れだね…。妖精の楽園って、本当は見つかってはいけないんだ…。でも、ローラは助けてくれた。ローラはボクたちが見える。だから、いつかまた会える…よね!」
ローラ
「はい…。私のやるべきことが終わりましたら、また…」
コルリ
「ローラ、これはボクからのお礼。君の体を蝕む毒を、すこーしだけ取ってあげる。大きな運命に立ち向かっている、蒼き巫女ローラ…。キミたちの運命はもうすぐ…」
コルリが微笑みながらそう告げると、あたりは白い光に包まれる。
ローラ
「きゃぁっ!」
眩しさに目を腕で覆う。
そして、光がおさまって目を開けると、そこは月光が射す迷いの森の中だった。
ローラ
「…戻って、きたんですね」
イノリ
「まるで、夢のようでした…」
ローラ
「気のせいでしょうか…少し体が軽くなった気がします」
フィリエ
「それにしても、妖精の世界に行けるとは思わなかったわ。その上、闇が襲ってきていたなんて…」
ローラ
「私たちが思っているよりも、この世界は深刻な状態にあるのかもしれませんね」
フィリエ
「ええ…できれば、もう少し妖精の楽園でいろいろ調べたかったけれど…ふわぁ~あ。眠くなってきたわ」
イノリ
「もう、遅いですからね。明日には騎士国王城には到着する予定ですし、早く寝ましょう」
フィリエ
「ええ、そうね」
フィリエとイノリは、馬車の中へと戻っていく。
ローラ
「私、少しはお役に立てたのでしょうか…」
静かな森の中で、ローラはつぶやく。
もしかしたら、先程の出来事は夢なのかもしれない。
ローラ
「…私にもできること、やれることはあるんですね。私にできることを、もっとたくさん見つけて、もっとたくさんお役に立てるようになりたいです…いいえ、なります!」
強くうなずいたローラの瞳には、確かな意志が宿っていた。
ローラ
「コルリさん、ありがとうございました」
もう、姿は見えない妖精にローラはお礼を言う。
すると、ひらひらと宙を舞う薄紅色の花びらが1枚。
そっと両手で花びらを捉えて、観察するように見る。
ローラ
「あっ! 文字が書いてあります。これは…エルフ語ですね。えっと…」
『ローラはボクにとって、永遠の太陽の花――妖精王コルリ』
ローラ
「コルリさん…妖精の王様だったんですね…」
優しく花びらのメッセージを撫でるローラ。
ローラ
「コルリさんのおかげで頑張れそうです。まだまだ迷ってばかりの私ですが、最高の花を咲かせてみせます」
どこか自信のなかったローラだが、今、その目は輝きに満ちていた。
翌朝、一行を乗せた馬車は騎士国グラージャートへと入り、王城へと到着する。
これから訪れる困難と衝撃の運命。
まだ知らぬ巫女たちは、ただただ純粋な笑みを浮かべていた。
その中には、昨日までとは違う、太陽のような微笑みと花のような優しさを携えたローラの姿もあるのだった。
fin.
引き続き「アルカディアの蒼き巫女」をよろしくお願いいたします。